東京大学名誉教授 山本良一先生より情報提供をいただきました
「急速に拡大する世界の気候非常事態宣言についての考察」

 満員の映画館の中で誰かが「火事だ!」と叫んだらどうすべきだろうか。辺りを見回して本当に火事なのかどうか、先ず自分で事の真偽を確認するのではないか。どこにも火や煙が見えず臭いもしないようなら、隣席の人にこの警報の真偽について尋ねるかも知れない。その内「火事だ、逃げろ!」と何人もが叫び出したら躊躇なく席を立って争って脱出口に向かうはずである。あるいは消火のために火元に向かって突進するかも知れない。勿論、群衆の中で警告を発することは重要だが、避難行動で負傷したり、悪くすると死者が出ることもあるので、慎重にしなければならないことは言うまでもない。
 さて、現実にはあり得ない話だが、脱出口の無い映画館の場合はどうであろうか。この場合は少しでも火事の気配がある場合は誤報を恐れず、「火事だ」と叫んで全員で消火に当たらなければならないであろう。そうでなければ全員が死亡する大変な事態を招くことは明らかである。
 地球温暖化問題にこれを当てはめてみるとどうなるだろうか。気候非常事態宣言(ClimateEmergencyDeclaration=CED)は「火事だ!」という警報に相当する。地球には脱出口は無く、人間活動起源の温室効果ガスによる地球温暖化はたとえ排出量をゼロにしても千年は継続することを考えると、直ちに全員で排出量を削減し(消火)、既に現れ始めている極端気象に対応しなければならない。筆者は昨年12月に“気候非常事態を宣言し、動員計画を立案せよ”という解説をまとめ、世界の気候非常事態宣言運動を紹介した。300を超えるカナダのケベック州の自治体は独自の方式で2018年8月にCEDをしている。これを除くと、2018年12月13日の段階で24自治体(住民総数約1,500万人)がCEDを行っていた。注目されるのはロンドンがCEDを行いパリ条約の1.5℃目標達成のためのプランを公表していることである。幸いこの解説は幸せ経済研究所の枝廣淳子氏のメルマガで紹介していただいた。
 それでは2019年8月2日現在、気候非常事態宣言はどこまで拡がったのであろうか。CEDAMIAのホームページの統計によれば、カナダのケベック州の394自治体を入れて数えると、18ヶ国の903自治体(住民総数約2億600万人)が宣言をしている。内訳はアルゼンチン1、オーストラリア31、米国22、カナダ448、英国283、スイス13、アイルランド12、イタリア17、ドイツ38、フランス9、ベルギー1、スペイン2、ニュージーランド13、チェコ1、ポルトガル1、オーストリア7、ポーランド3、フィリピン1である。7月だけでも英国では95自治体がCEDを行っている。ケベック州を除いて考えると、昨年12月の段階で24自治体だったものがこの半年間で509に増加したことになる。またこの5月~7月に英国、アイルランド、ポルトガル、カナダ、フランス、アルゼンチンが国家として気候非常事態宣言を行ったことが特筆される。より正確に言えば英国は「環境と気候」の、アイルランドとフランスは「生物多様性と気候」の非常事態を宣言した。映画館での火災に例えれば、観客77億人(世界人口)のうち、2億600万人が「火事だ!」(気候非常事態宣言)と叫び出したのである。非常事態にはいろいろな非常事態があるが、気候と環境が非常事態にあるということはどういうことであろうか。

 

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※本文は令和元年8月21日(水)付の環境新聞に掲載されています。